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ふくおうじでん
福翁自伝
福沢 諭吉
Read 福翁自伝 (ふくおうじでん) by 福沢 諭吉 (ふくざわゆきち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 209,912 characters · 402 screens
嫌疑を憚らず
可笑しい、屹と困るであろうと嬲るのはチャント分て居る。所が私は少しも困らない。杯をグイと干して、大夫さんの命に従い一番好いた人に上げます、ソレ高さん、と云て杯をさしたのは、六、七歳ばかりの寺の末子で、私が瀉蛙々々として笑て居たから家老殿も興にならぬ。既に今年春ジャパン・タイムス社の山田季治が長崎へ行くと聞き、不図光永寺の事を思出して、あの時は如何なってるか、高さんと云う小僧があった筈だが、如何して居るか尋ねて見たいと申したら、山田の返事に、寺は旧の通り焼けもせず、高さんも無事息災、今は五十一歳の老僧で隠居して居るとて写真など寄送しましたが、右の一件も私の二十一歳の時だから、計えて見ると高さんは七歳でしたろうに、恐ろしい古い話です。
嫌疑を憚らず左様いう訳けで私は若い時から婦人に対して仮初にも無礼はしない。仮令い酒に酔ても謹しむ所は屹と謹しみ、女の忌がるような禁句を口外したことはない。上戸本性で、謹みながら女を相手に話もすれば笑いもして談笑自在、何時も慣れ/\しくして、その極は世間で云う嫌疑と云うような事を何とも思わぬ。血に交わりて赤くならぬこそ男子たる者の本領であると、チャンと自分に説を極めてあるから、男女夜行くときは灯を照らすとか、物を受授するに手より手にせずとか、アンな古めかしい教訓は、私の眼から見る