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ふくおうじでん
福翁自伝
福沢 諭吉
Read 福翁自伝 (ふくおうじでん) by 福沢 諭吉 (ふくざわゆきち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 209,912 characters · 402 screens
露国に止まることを勧む
その中に段々接待委員の人々と懇意になって種々様々な話もしたが、その節露西亜に日本人が一人居ると云う噂を聞たその噂は、どうも間違ない事実であろうと思われる。名はヤマトフと唱えて、日本人に違いないと云う。勿論その噂は接待委員から聞たのではない。その外の人から洩れたのであるが、先ず公然の秘密と云う位な事で、チャント分て居た。そのヤマトフに遇て見たいと思うけれどもなか/\遇われない。到頭逗留中出て来ない。出て来ないがその接待中の模様に至ては動もすると日本風の事がある。例えば室内に刀掛があり、寝床には日本流の木の枕があり、湯殿には糟を入れた糟袋があり、食物も勉めて日本調理の風にして箸茶椀なども日本の物に似て居る。どうしても露西亜人の思付く物でない。シテ見ると噂の通り何処にか日本人の居るのは間違いない、明に分て居るけれども、到頭分らずに帰て仕舞いました。私の西航日記にこの事を記して、その傍に詩のようなものが一寸と書てある。
起来就食々終眠、飽食安眠過一年、
他日若遇相識問、欧天不異故郷天
今日になって一々記憶もないが、余程日本流の事が多かったと思われます。
露国に止まることを勧む夫れから或日の事で、その接待委員の一人が私の処に来て、一寸こちらに来て呉れろと云て、一間に私を連れて行た。