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ふくおうじでん
福翁自伝
福沢 諭吉
Read 福翁自伝 (ふくおうじでん) by 福沢 諭吉 (ふくざわゆきち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 209,912 characters · 402 screens
本藩の扶持米を辞退す
過日も横浜から例の青札を以て上等に飛込み神奈川に上った奴がある。私は箱根帰りに丁度その列車に乗て居て、ソット奴の手に握てる中等切符を見て、扨々賤しい人物だと思いました。
本藩の扶持米を辞退す是れまで申した所では何だか私が潔白な男のように見えるが、中々爾うでない。この潔白な男が本藩の政庁に対しては不潔白とも卑劣とも名状すべからざる挙動をして居ました。話は少々長いが、私が金銭の事に付き数年の間に豹変したその由来を語りましょう。王政維新のその時に、幕府から幕臣一般に三ヶ条の下問を発し、第一、王臣になるか、第二、幕臣になって静岡に行くか、第三、帰農して平に民になるかと云て来たから、私は無論帰農しますと答えて、その時から大小を棄てゝ丸腰になって仕舞い、ソコで是れまで幕府の家来になって居るとは云いながら、奥平からも扶持米を貰て居たので、幕臣でありながら半ばは奥平家の藩臣である。然るに今度いよ/\帰農と云えば、勿論幕府の物を貰う訳けもないから、同時に奥平家の方から貰て居る六人扶持か八人扶持の米も、御辞退申すと云て返して仕舞いました、と申すはその時に私の生活はカツ/\出来るか出来ないかと云う位であるが、併しドウかしたなら出来ないことはないと大凡その見込が付て居ました。