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ふくおうじでん
福翁自伝
福沢 諭吉
Read 福翁自伝 (ふくおうじでん) by 福沢 諭吉 (ふくざわゆきち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 209,912 characters · 402 screens
唯黙って傍観して居る中に維新の騒動になって、徳川将軍は逃げて帰て来た。スルと幕府の人は勿論、諸方の佐幕連が中々喧しくなって議論百出、東照神君三百年の遺業は一朝にして棄つべからず、三百年の君恩は臣子の身として忘るべからず、薩長何者ぞ、唯是れ関ヶ原の降参武士のみ、常々たる三河譜代の八万騎、何の面目あれば彼の降参武士に膝を届すべきやなんて、大造な剣幕で、薩長の賊軍を東海道に邀え撃んとする者もあれば、軍艦を以て脱走する者もあり、策士論客は将軍に謁して一戦の奮発を促がし、諫争の極、声を放て号泣するなんぞは、如何にもエライ有様で、忠臣義士の共進会であったが、その忠義論もトウ/\行われずに幕府がいよ/\解散になると、忠臣義士は軍艦に乗て箱館に居る者もあれば、陸兵を指揮して東北地方に戦う者もあり、又はプリ/\立腹して静岡の方に行く者もあるその中で、忠義心の堅い者は東京を賊地と云て、東京で出来た物は菓子も喰わぬ、夜分寝る時にも東京の方は頭にせぬ、東京の話をすれば口が汚れる、話を聞けば耳が汚れると云う塩梅式は、丸で今世の伯夷、叔斉、静岡は恰も明治初年の首陽山であったのは凄まじい。