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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Read 私本太平記(五) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 252,330 characters · 505 screens
「なるほど、北条は亡んだ。しかしもう次の北条ができかけている」
「異なおことばを」
「奇異にひびくのか。こんな当然な言が。……還幸、新政、そんな祭り騒ぎに万人酔うている様こそ心もとない。くれぐれ、護良が嘆いておりましたと、父の帝へ、聞え上げい」
「では、ふたたび沙門へ還るお心は」
「ない!」
大塔ノ宮は、二度いうなと、叱るような語尾を切って。
「老後は知らず、いまにおいては、せっかく蓄えたこの黒髪を、あたら再び剃る気はない。……と、ばかりでは、叡慮にたてつくまろの依怙地のように取られもせんが、世を思うためだ。また、ここまで剋ちとってきたご理想の具現をふかく憂えるからだ。もう次の高時が洛中に驕っておる。――第二の高時、第三の高時、総じて、不逞なる仮面の敵を、誅罰しきらぬうちは、この信貴山毘沙門堂の軍はめったに解くわけにはゆかぬ」
「それはそも、たれをさしての、お憤りでございますか」
「高氏よ」
「えっ」
「六波羅一掃の後、おのれ六波羅奉行と称え、御教書などを布令だし、かずかずの越権、目にあまるものがある。――その足利こそ油断ならぬ者だ。しかるに、みかどはその高氏を、さっそく治部卿の官にあげられ、弟直義をも、左馬頭に任じておられる……。