Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Read 私本太平記 (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 126,598 characters · 254 screens
「初めてお目にかかります。私は、覚一と申し、まだ修行中の琵琶の楽生、母は草心尼といいまする。柳斎どのがお留守でも、お世話になって、かまいませぬか」
「ええ、どうぞもう。……茅ら屋ですが、長屋も気らく。宅でお休み下さっても」
「ありがとうございます。じゃあお母さま、そうしましょうか」
「ま、遠慮のないことを」
女と女は、つつましく笑いあった。それもよし、また、覚一の率直も、かえってよかった。初めてだが、親しまれて、尼は卯木のすすめのまま、彼女の長屋世帯へ、身を移した。――そして狭い一間に旅装を解き、夕餉の膳も、元成夫婦と一つにした。
が、旅の柳斎は、帰らなかった。つい、一日一日と待っていた或る夕のこと。――突然、外から帰って来た手代の禿鳶が、前日、都に起ったという大変事を、大わめきに、長屋中へ触れ立てた。
「大損だ。大損だ」
禿鳶の声は、狂乱じみている。
「なにしろ、たいへんなことになっちまッたわ」
長屋の端から、順に戸毎を覗きこみ。
「おいおい、鍍金師、仕事は中止だ。塗師も彫師も糸縒も染革仕事も、一さい合財、この間の註文仕事は、みな見合せだよ。……すばらしい景気どころか、大騒動が来ちまったんだ」