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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Read 私本太平記 (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 126,598 characters · 254 screens
俊基斬られ
俊基斬られ
この年、七月七日である。
東海道を中心に、京、関東一円をも驚かせた大地震があった。
記録には、
――富士山、数千尺崩ル
とある。
そのころ、富士はつねに噴煙をなびかせている活火山だったが、大地震のせつな、広範囲な灰を降らせて、数日の間、夜は頂上の鮮烈な火光が、東海の潮も赤くするほどだった。
× ×
「富士が燃える」
「いや山霊のお怒りじゃろ」
「なにせい、これや、ただ事ではあるまいぞ」
鎌倉の府も騒ぎだった。
柳営の建物にも損害があり、市中の倒潰家屋はおびただしい。余震のため、なお幾日も、竹やぶに蓆をしいて寝ている庶民が多いのである。
折も折。すぐ前月の六月には、六波羅からこの鎌倉表へ、――日野俊基をはじめ、宮方陰謀の重大犯とみなさるる僧の文観、忠円、知教、遊雅、円観など――あまたな縄付がぞくぞく押送されていた。で、なおさら、
「万一にも」
と、幕府は戦時令にひとしい厳しさを以て、流言の徒や、怪しい入府者を取締り、七切通しを、兵で塞いだ。
しかも、柳営の白洲で、その日まで吟味にかけていた陰謀僧の処断も、地震後わずか五日目に言い渡して、それぞれの遠流先へ、流してしまった。