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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 157,440 characters · 313 screens
「畜生、自棄にシーンとしてやがるぜ」
愚痴をいいながら金太は、残り少なになった粉煙草を、煙管の雁首でしゃくっておりました。
「ちょいと」
裏口で馴々しい女の声がするのです。
「だれだえ」
「あたし」
女の声は甘酢ッぱく金太の好奇心をこそぐります。
「あたしじゃわからねえ」
「あら、ずいぶん薄情ねえ」
そんな掛合いのうちにも、金太は妖しい声に操つられるように、ノソリと立ち上がるとお勝手の方に歩いて行きました。
「だれだえ、今時分」
勝手口の戸に手をかけて、ガラリと開けるのと、金太の頭へ何やらパッと冠せるのと一緒でした。
「野郎ッ、何をしやがる」
それをかなぐり捨てようとする金太は、恐ろしく強い手で羽がい締めにされて、板の間にそっと寝かされました。続いて座布団らしいもので口を押へて、細引が頭から首へ、手へ足へ、と滅茶々々に縛って行くのです。
岡っ引――多寡が少々のお手当で、謀者の役目をしている古道具屋の金太に、たいした武力も胆力もあるはずはなく、こうなるともう蟲のように転がされて、相手の思う存分にされるほかはありません。
曲者は二人でした。最初金太を呼んだ若い女と、後で金太を手籠めにした、恐ろしく強い男と。