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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 157,440 characters · 313 screens
平次は右手の十手を左に移して、そのまま右手に懐をさぐりました。手慣れた四文銭がたった二枚、指先にまさぐり出されて、万一の用意に掌に納めました。
カッと思いも寄らぬ稲妻、戸の隙間から漏れてその光りは、一瞬部屋中を照します。
「あッ」
平次が驚いたのも無理はありません。ツイ自分の立っているところから二間ほど先、部屋の向う隅に、キラリと光ったのは、紛れもなく白い女の手に振り上げた匕首で、その下に引据えられたのは扱帯と細紐で滅茶々々に縛られた女――紛れもないそれは、自分の女房のお静の横顔だったのです。
匕首がお静の首筋へ落ちる前、間一髪の機先を制して、平次の掌の中の四文銭が飛びました。
「あッ」
一つは女の拳を打ち、一つはその頬のあたりを、強かに打った様子。が、そんな事でひるむ女ではなかったのです。僅かに匕首を持ち直すと、忽ち次の襲撃は用意されたのです。
「あれッ」
悲鳴はお静でした。第二の匕首は、僅かに手許が狂って、お静の肩を滑ったのでしょう。
「御用ッ」
平次はもう身体ごとたたき付けて、女の匕首から辛くもお静を庇うのが精一杯でした。
「畜生ッ」
女は恐ろしく下司な呪いの言葉をたたき付けると、伸びて行く平次の手を免れて、飛鳥の如く飛び去りました。