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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
ヒゲツキ節は、本社が近すぎるせいか、今夕はお休み。
もっぱら雑談。――屋島の檀ノ浦と、ここの壇ノ浦と、ダンの字の相違如何、などという中学試験問題みたいな話もわく。
じつは、ぼくもそれを知っていない。篤学なる悟空子の説や、ヒレ酒のあいまに、うんちくを傾け合う諸家の高説を、耳袋へ集めていたわけである。
そこで結論を報告すると、屋島のダンは、木ヘンの檀。こっちのダンは、土ヘンの壇。こういうことに、使い分けられているという。いや――いる人もあるにはある。
だが、じつは、どっちもあて字で、どっちも嘘。そう難しく穿鑿するなら、ダンは団で、団ノ浦でなければ、正確ではない。
ここの関門海峡も、屋島の浦あたりも、大昔、軍団が置かれていた地であるというのである。いわれてみれば、古記に“豊浦ノ団”などという文字もある。「玉葉」の著者九条兼実は、清盛嫌いで、反平家派の巨頭だが、さすがにこの人は、団ノ浦と書いて、檀とは書いていない。
人間が地形に宿命を託すところは、千余年も前から決まっていたものとみえ、関門海峡は中古以前の早くから、要するに、要塞地帯であったわけだ。ここは外夷に、屋島は内海の乱に、常時、防人の団がおかれていたものであろう。