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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
瀬戸内と別府の巻
訊いてみると、じつはおとといあたりから風邪をひいていたのだと答える。待てよ、すると、ぼくが白峯の石段でころんだとき、「すこし痛い」と答えた「すこし」は、国際的に通用しないゼスチュアでもないかも知れない。マ氏の水洟さえ、親友嘉治さんへの友情とエチケットになっている程だから。
船、桟橋を離れる。
川六のマダム、テープを投げてよこす。夜だし、早く離せばいいのに、船について、桟橋の端まで、駆け出したので、ロープか何かにつまずいて、ころんだ様子だった。白峯の石段でなくて、まあよかった。
いや、ザブン……などと、夜の海が飛沫を上げなくて、ぼくらも救われた。所は壇ノ浦の近く、とんだ建礼門院様に、アプアプお見送りをされたかもしれない。(二六・七・八)
瀬戸内と別府の巻
――眼がさめる。こがね丸の船室のベッド。海のホテルの方が、かえって冬を知らないあたたかさ。鼻の穴はかさかさ、肌はベトつき気味。これで風邪も抜けたかもしれないと思う。
同室の健吉画伯はとうかがうと、もう、もぬけの殻。そこでひとり甲板へ出てみると、やはり冬は冬、海は海、どうして伊予灘の寒風は侮り難しである。