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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
Read 随筆 新平家 (ずいひつ しんへいけ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 213,575 characters · 424 screens
新潟“白浪抄”
“かえるのおとがい”というそうだ。みな知っている。ぼくだけが、名知らぬ花。
市中の支局に立寄り、十一時四十五分発、新潟行へ乗る。星野、平山、山口氏などに、礼をのべ、駅頭でお別れした。(二八・三・二〇)
新潟“白浪抄”
車窓から裏磐梯をふりかえる。弁当をひらいて、ひとしきり、ゆうべの迷子ばなしで談笑。しゃべり疲れて、やがて居眠る。
羽越国境を出るまでがなかなか長い。蕪村の「春の海ひねもすのたりのたり哉」をもじって、「秋の汽車日ねもすゴトンゴトン哉」は、どうだとたれかがいう。
阿賀野川に夕陽赤く、窓外はようやく新潟平野らしい。たしか新津駅だったと思う。にわかに、車中は混み合い、魚臭くなる。
ほとんどが、魚の買出し屋さんである。男か女かわからない。ただ、女はオッパイ小僧も瞠若たる肌を露出する時に、初めてそれと分かる。体にも、ゴム長にも、財布からつかみ出す紙幣にまで、魚のウロコがぴかぴかくっついている。手から手へ、金を渡し、ツリを取り、女弁男弁、いずれ劣らぬカン高い喧騒である。時は、二十六年の秋、そのころの食糧事情と、生き合う血相と、ヤミ経済なるものを前提としないでは、この車中風景は、理解できない。