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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
「まだまだ、あんなことじゃ気がすまねえ」
孫兵衛はホロ苦く杯を舐めて、
「万吉をぶっ倒したぐらいで、いい気持になっちゃいられない。肝腎なやつは弦之丞とお綱だ。仕事はこれから骨が折れるよ」
「さあ、その弦之丞とお綱を見つけるのが、これからの問題だが……今思うと、昨夜、万吉の死骸を捨て帰ったのは、かえすがえすも吾々のぬかりだった」
と、周馬は、枝豆を口へ弾きこむ。
「なぜ?」
「あの死骸を囮にして、弦之丞を待ち伏せしていれば、必ず引ッかかってきたに違いない。その証拠には、今朝あの土橋へ行ってみれば、もう彼の死骸が片づけられていたではないか」
「下司の智慧は後からで、それならなぜ、人も乗っていない空舟をお手前、あわてて、追い駈けて行ったんだ」
「あれは一角が真っ先に調子づけたのだ。一角が悪いよ」
「あげ足をとるな。たまには犀眼にも見間違えがある」
「まあいい、またこんな所で、泥のなすりあいから仲間割れをしてくれるな。宅助の話によれば、なんでも、猫間堤で四国屋の内儀と弦之丞とお綱とが行き逢った時、非常に親しい様子だったというから、こんどは手をかえて、その四国屋のお久良とかいう者を詮議してみりゃ分るだろう」