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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
「大勘……ウム、大勘、こちらの親方に違いない」
とつぶやきながら荒格子をあけ、畏る畏る、
「ごめんなすッて」
と、上がり框へ腰をかがめた。
部屋にいる手間取か内弟子か分らないが、いけぞンざいな若いのが出てきて、
「なんだい」と見下ろした。
「旅人でございます。親方のお名前を承知しまして、お頼り申してまいりました」
「同職か」
「ヘエ」
「上がンねエ」
「ありがとうぞんじます」
「裏へ廻ると井戸がある。その側に小屋があるから、そこでゆっくり泊ってゆくがいい。朝立つ時にゃちょっと俺たちの部屋へ声をかけて行きな、わらじ銭と午飯だけは餞別してやることになっているんだから」
「ご厄介になります」
格子を出て裏へ廻った。
路次の横に窓があった。すだれ越しにチラと見ると、羅漢のような裸ぞろいが、よからぬ弄戯に耽っている。
同職の渡り者といえば、宿なし犬に縁の下を貸すくらいな気安さで泊めてはくれるが、ちゃんとあしらいの寸法がきまっていて、何ひとつ道具のない部屋で、塗りの剥げた箱膳に、沢庵四きれ、汁一椀、野菜の煮しめが一皿ついて、あたりに人はなしといえども、それをあぐらで食うわけにはいかない。