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あるひのれんげつに

ある日の蓮月尼

岡本 かの子

Read ある日の蓮月尼 (あるひのれんげつに) by 岡本 かの子 (おかもとかのこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,878 characters · 25 screens

Aozora Bunko

第三景

鉄斎 ――承知しました。

蓮月 ――それに、今その金はわたしのところに入用ありませんから、橋の方の費用にやって下さい。

鉄斎 ――ではお預かりして行きます。

(両人一礼して柴折戸を出る。道にさしかかる。)

亀田 ――橋の費用とは何だね。

鉄斎 ――尼さんは自分で費用を出して、加茂川に人助けの為めの橋を架けつつあるのだ。

亀田 ――ふむ。(尊敬の念に堪えぬ表情で尼の方を振り返り、しばらくじっと立ち止まって居る。)

第三景

(同じ庵室。初夜近き刻限。何処とも無く糸車を繰る音、それに交って水車の音。蓮月は白布子に腰衣だけつけ、座敷の方で燈火に対し、明日の竈に入れる素焼きの皿や鉢に一生懸命絵を描いて居る。

右手の竹藪を距てて母家の律院がある。障子越しの燈が竹藪にほのかにさして居る。

律院の障子が開いた様子、老僧らしい声だけする。)

老僧 ――蓮月さん、まだ寝なさらんのかい。

蓮月 ――(筆を止めて)律師さまですか。あなたもまだ起きていらっしゃいますか。

老僧 ――いやわしは退屈まぎれに碁の本を見て居るのだが、あんたは日一日働いてその上夜業はしんどうないかな。

蓮月 ――滅相な。有がたくて気が勇んで居ります。