Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
Read それでも私は行く (それでもわたしはいく) by 織田 作之助 (おださくのすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 89,708 characters · 181 screens
……恐怖と恥かしさと憤りと、好奇心と、何かにすがりつきたいような女の本能とが交錯した時間を、妖しいリズムが刻んで行った。
はっとわれに返った千枝子の耳に、窓の外を流れる川音が聴えて来た。それがにわかに夜の更けた感じであり、そしてまた悔恨のような、あわただしい音であった。
男は暫らく、じっとしていたが、やがて手を伸すと、枕元のスタンドの灯をつけた。
ぱっと照らされて、千枝子は思わず身をすくめ、裾をかき合わせると、男の胸に小さくなって顔をかくした。
そして、そのままじっとしていたが、そんな自分が情けなかった。
その男は小郷虎吉といい、もと軍需会社の幹部で、旧円と新円の切りかえの時、銀行と結託して、莫大な新円を手に入れ、毎夜、祇園先斗町、木屋町の魚町や、キャバレーへ出没しているような五十男だったから、千枝子はもとより好きになれず、いや、むしろいけすかない客だと思っていた。
ところが今、こうして、小郷の胸に顔をつけているとは、一体何としたことであろう。
なぜ強くはねつけなかったのか、なぜ救いを求めなかったのかと、自分を責めたい気持で一杯だった。大きな声もよう出さぬおとなしい性質のためだったろうか。