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とむらいきかんしゃ
とむらい機関車
大阪 圭吉
Read とむらい機関車 (とむらいきかんしゃ) by 大阪 圭吉 (おおさかけいきち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 186,729 characters · 371 screens
、それも海の中へ突出した船形の岬の上へ、しかもまるでそれが船の上の建物ででもあるかのような家を建てて日ねもす波の音を聞き暮すと云う。不幸にして、私はまだ一度もこの隠居船長に面識を持たないのであるが、そしていま又こうして夫人の重大な招きの電話を受けて始めて深谷邸を訪れる機会を持ちながらもいまはもう会おうにも会えない事情に立ち至ったのであるが、かつて私のところへ二、三度薬を取りに来たこの家の召使の言葉に依れば、なんでも深谷氏のこの奇妙な海への憧れは己れの住う家の構えや地形のみではあきたらず、日常生活の服装から食事にまでも海の暮しをとりいれて、はては夫人召使から時折この家を訪なう外来の客にいたるまで己れを呼ぶにキャプテンの敬称を強要すると云う、それはまるで海の生活を殆んどそのまま地獄の果までも引っ提げて行こうほどの激しいひたむきな執念だった。されば既に還暦を越した老紳士で人柄としては無口な穏かな人でありながら、家庭と云うものにかけてはまことに冷淡で、わけてもひとつの妙な癖を持っていてしばしば家人を困らしていたとのこと。それはひとくちに云えば並はずれたヨット狂で、それも朝から晩まで附近の海を我がもの顔に駈け廻ると云う程度のものではなく、夜になって辺りが闇にとざされる頃から青白い海霧が寒む寒むと立てこむ夜中にかけて