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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
Read アンドロギュノスの裔 (アンドロギュノスのちすじ) by 渡辺 温 (わたなべおん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,168 characters · 267 screens
「僕は肺病だと思った。」
「かさかきだよ。西洋のひどい奴だそうだ。」
「はて、僕に一緒に死んでくれって、そう云ったが。」
「余程、性悪の女だね。」
「僕は一緒に死ぬことを受け合ったんだよ。そして僕は、肺病のばいきんを口一杯に引き受けてやったんだが。」
「君は、西洋の水兵のかさを引き受けたわけだ。」
「そいつは、弱ったな。」
私は深い嘆息と共に、シルクハットを脱いで膝の上に載せたが、あやまってそのケバを逆にこいてしまった。すると毛並は荒々しくさか毛立って、強い潮風に戦いた。私の胸は取り返しのつかない間違いをしてしまった後悔の心で重たく沈んで、そして俄に泪がこみ上げて来た。泪はシルクハットの上にも落ちた。
「けれども、それは男と女との関係だから仕方がないさ。」と中村は云った。
「そのかさはもう何百年もの間に、世界中の何千万と云う男と女とを一人ずつつないで縛って来たんだね。」と私は云った。
「男と女との愛と同じ性質のものさ。それに、君はシルクハットをかぶっているのだし、誰だって君をかさかきだなぞと云って蔑みはしないよ。――さあ、元気になり給え。」
私は、ようやく気を取り直して、あらためてシルクハットをかぶると、朝の空気を大きく吸った。