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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
Read アンドロギュノスの裔 (アンドロギュノスのちすじ) by 渡辺 温 (わたなべおん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,168 characters · 267 screens
Y君は、何時でも、彼女たちの当のないあぶれた足音が歩道の上を近寄って来ると、甃石に唾をはきつけて退却した。
ところが、その運命的な休みの一日、未だそんなに遅くない刻限で、ようやく暮れなずんだ水の色を見つめながら、Y君は池の縁の柔らかい草むらに足を投げ出していた。すると、だしぬけに、そっとY君の両肩につかまった者があった。振向いて見ると、一目でそれと判るような、小綺麗なエプロンを胸にかけた可愛らしい女中が、悲しそうな顔に何か訴えたいような風情を示しているのであった。
『どうなすったのですか、お嬢さん?』と恋の修道士は訊ねた。
『あなた、あなた、あなたは、まさか、この池に身を投げて、お果なさるおつもりではないでしょうね?――』と娘は、吃りながら云うのであった。
『さあ?――』とY君は訊き返した。
『あなたは、きっと、此処の――』と娘は悲劇女優の家の方を指さしながら、『此処の邸の者に恋をしていらっしゃるのですわね。いいえ、もう、すっかり存じて居りますわ。それに、その事がいけなかったなんぞとは、ちっとも未だ申し上げませんもの。決して、御心配なさるには及びません。