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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
Read アンドロギュノスの裔 (アンドロギュノスのちすじ) by 渡辺 温 (わたなべおん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,168 characters · 267 screens
」
――ああ、帰っておくれ!」
そんな時には熱は直ぐ上った。そして、それが幸子の故だと云って、彼女は鳥渡でも姿をかくしたりすると、旻は一層亢奮して看護婦や女中を怒鳴りつけて、幸子を呼んでくれと云い張ってきかなかった。夜更けて氷嚢を取り更えるのにも旻は眼を大きく輝かせて、若しそれが幸子以外の者である時にはひどく機嫌が悪かった。
併し、遉に晃一が居合わせる際なら、そう我儘も云うわけにはいかなかった。晃一に対してはまことに素直に振舞った。
晃一は所在ない陰気な日曜をまる一日、弟の枕もとに寝そべって弟のために買って来た新刊書などを自分で読みながら過すのだったが、ふと二人の顔が会うと、旻は黙って微笑してみせて、さて大儀そうに首をそむけて眼を閉じた。
3
上天気が続いて日毎に晴々とした青空の色が深くなって行った。海は一番はるかな島影もはっきりと浮かせて、湖のように静かであった。
旻の病気は鳥渡もち直したかたちであった。
その日の午後、旻は久し振りで、陽の一っぱいに当っている縁先の籐の寝椅子に出て見た。
幸子は庭に降りて、誰も構うものがないので、延び放題に延びてたおれかけたコスモスの群れをいくつにもまとめて紐で縛りつけていた。