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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
Read アンドロギュノスの裔 (アンドロギュノスのちすじ) by 渡辺 温 (わたなべおん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,168 characters · 267 screens
死後十五六時間を経過していたが、生憎岩礁だらけの磯で、夏場ではなし、魚とりの小船の廻るようなところでもなかったので、容易に人目にふれずにいたわけである。それを最初に発見した村人は、甲斐ない捜索にくたびれ果て、其処を通りかかりふとその崖の上から覗き込んだ時に、明け方の薄ら明りの中にヒラヒラと飜っている黒地に真赤な刺繍を彩したパジャマの片袖におどろかされたのであった。
自殺とも他殺とも考えられる適当な理由が見出されなかったので、係の役人達は簡単に過失死と断定した。
幸子の屍は、とりあえず別荘に移されて、あらためて白い寝床に寝かされて、晃一の到着を待った。
ところが、何時でもそれに決まっている正午の汽車に、晃一の姿は見えなかった。そしてその代りに停車場へ出迎えに行った人々が空しく帰って来るよりも、一足先に電報が届いた。
ツゴウワルシ アスユク――としてあった。
それでうろたえた人々は直ぐに至急電報で打電し返した。
晃一は終列車でやって来た。
――入札があって、遅れた。」
冬の厚いトンビの襟を立てて、唇を慄わせながら、迎えの者にそう云った。
幸子の体はもうすっかり傷口を繃帯して、綺麗に拭き浄められてあった。