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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
Read アンドロギュノスの裔 (アンドロギュノスのちすじ) by 渡辺 温 (わたなべおん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,168 characters · 267 screens
彼女は、せい一っぱい僕を愛し、そして僕に愛されることによって満足していた。」
――嘘だ。あの人が愛していたのは、兄さんではなかったのだ。」
――お前は、まさか、幸子が自分で飛び降りて死んだなぞと云うのではあるまいな。」
二人の声は、夜更けの空気の中にからみ合った。
――そうではない。幸子さんは殺されたのだ。」
――何だって※(疑問符感嘆符、1-8-77)」
――幸子さんは、突き落とされたのだ。……僕が幸子さんを突き落としたのだ。」
――しッ! 下らないことを云うのは止せ。冗談にしろ、看護婦にでも聞かれたら厄介な話だ。」
――誰が冗談にこんなことを云うもんか。すっかり話をしよう。」
――お願いだ。もっと静かな声で喋ってくれ。」
そこで、旻は兄に次のようなことを打ち明けた。
――僕の幸子さんに対する愛情は、僕たちが引きさかれてしまってからだって、ちっとも薄らぐことはなかった。いくら諦めなければいけないと自分の心に云いふくめてみたところで、所詮無駄だった。そして兄さんを怨んだ。我々の如き境遇にあって、たとえ幸子さんが兄さんの許婚であったにせよ、二人がお互に一切を擲って愛し合っているものを、引きはなす権利が兄さんの何処にあろうか! 兄さんが彼女を愛しているから、なぞと云うのはまことに理不尽千万な、この上もなく無法