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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
Read 上杉謙信 (うえすぎけんしん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,102 characters · 256 screens
国中、塩攻めになったのである。
足長な信玄が、駿河へ兵馬を出したことから、敵方の苦策によって、反噬をうけたのだった。今川、北条の二家が相提携して、
「信玄の勢力下へは、一合の塩も入れるな」
と、甲信二国と上州の一部にかけて、厳重な輸送停止を実行し、もし眼をかすめて一握りの塩でも敵に売った者があれば、斬罪に処すると発令した。
半年や一年は貯蔵で凌げた。また山中や河川で小量な闇取引も行われた。けれど足かけ三年にもなると、さすがの信玄も困惑した。三十年来まだかつて戦に弱音をふいたことのない彼も、
「いかにせん乎」
と、日々屈託顔に見えた。
由来、甲信上毛は、塩ばかりでなく海産物はすべて、北条、今川家の領に依存していたので、この苦痛は徹底的にこたえた。領民の皮膚は目に見えて青味を帯び、病人は急に殖え出した。わけても、味噌、漬物が喰えないことは、百姓の生活を致命的におびやかした。従って、農産も減退するし士気はふるわず、さしもの甲府も自滅のほかなかった。
「今ではありませんか。一挙、甲府を撃砕するのは」
うわさは頓に高い。越後表でも謙信にたいしてしきりにすすめる武将もあった。