Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
せかいかいきじつわ「じょぶん」
世界怪奇実話
牧 逸馬
Read 世界怪奇実話 (せかいかいきじつわ「じょぶん」) by 牧 逸馬 (まきいつま) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 251,305 characters · 498 screens
3
3
Captain Ernest Smith ――アウネスト・スミス船長は、赤ら顔に白い三角髯の、年とった「海の頑固者」だった。沈没の瞬間まで船橋に立っていた。海中に投げ出されて、ふと見るとすこし向うに赤ん坊が浮かんでいる。船長は泳ぎ寄って赤ん坊を差上げ、手近の救命艇へ急いで其の小さな遭難者をボウトの中へ入れた。
「船長!」ボウトの人は口ぐちに叫んだ。「このボウトへお上んなさい! まだ一人ぐらい大丈夫です」
濡れた白髪を振って船長が答えた。
「いや、私はあの板の破片へ掴まろう」
そして水を蹴って泳ぎ去った。これがタイタニック船長アウネスト・スミス氏の生きて見られた最後だった。
まるで壜のコルク栓をばら撒いたように、溺死体が海面を埋めて漂っているのを、四月十五日の暁の光が淡く照らしはじめた。死者の或るものはボウトの縁をしっかり掴んで、死んでも放さなかった。爪が、塗料を被たサイドの板にめり込んでいた。非常な力を宿した儘死んでいる指を一本ずつ開いて、屍骸を取り離すのが大変だった。
数時間後に、最初の救助船カルパセア号が現場に到着した。「水平線にぽっちり灯りが見えたのです」