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せかいかいきじつわ「じょぶん」
世界怪奇実話
牧 逸馬
Read 世界怪奇実話 (せかいかいきじつわ「じょぶん」) by 牧 逸馬 (まきいつま) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 251,305 characters · 498 screens
それに、向うの船の船橋に、モウルスの手燈信号の閃めきが見えるようでもあるのだ。
「何だか灯りを振ってるようだぜ」
傍で双眼鏡を手にしているライトラアがそう言うので、ボクソウルもモウルス燈を持出して求援の意味の閃火を送った。しかし、依然として彼方の船には反応が現れない。が、其の時キャリフォルニアン号では、あのストウンとギブスンが不審を抱いて、懸命にモウルス・ランプで信号していたのである。
勿論、正確なことは断定出来ないが、その夜の空気は、肉眼に映った程それほど澄明ではなかったのだろう。星の凍るほど寒い、静かな晴夜だった。あのスティヴンスンの好んで書いた“a wonderful night of stars”である。北大西洋には附き物の大きな畝りどころか、小皺一つ無い海面だ。尤も、斯うした早春の静夜には有り勝ちの、水に近く、一めんに浅霧が立ち罩めていたのかも知れない。それが、断続的なモウルス燈の点と線を消して、両船の間に信号を交換させなかったのだろうと解釈されている。
このタイタニックとキャリフォルニアンと、二つの船の乗組員達が、互いの船の檣頭燈や、赤と緑のサイド・ランプは肉眼ではっきり見てながら、望遠鏡で探し合ったモウルス信号の灯だけ何うしても発見することの出来なかったのは、永久に説明されない神秘でなければ