Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
せかいかいきじつわ「じょぶん」
世界怪奇実話
牧 逸馬
Read 世界怪奇実話 (せかいかいきじつわ「じょぶん」) by 牧 逸馬 (まきいつま) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 251,305 characters · 498 screens
単に救命艇が不充分で其の余地が無いからである。何という手落ちだったろう。アウネスト・スミス氏は、傾く船長室の卓子に白髪の頭を抱えて、沈思した。苦悶した。懊悩の底に自問自答した。
知らした方が好いか。
報せないほうがいいか。
閉め切った室内を夢中で歩き廻って、彼は二千の人の命を預かるものとして王者のような苦しみを苦しんだ。
漸て解決が来た。
知らせない事にしよう! 不安は常に驚愕より優っている。不明瞭な苦痛は、明瞭な苦痛より未だ増しだ。今真実を公表することは、死刑の宣告をするようなものである。それよりは、何も識らせずに、銘めいをして其の時どきの成行きに善処させよう――固く結んだ船長の口元に、歪んだ微笑が上った。
この理由以外に、もう一つ彼は考えた事があるに相違ない。
船客は其の時迄平穏だった。一、二等は主として英米人。他の大西洋汽船と同じに、三等は殆んど全部南部及び東南欧羅巴からの移民、波蘭土人、露西亜人、伊太利人、ルウマニア人――でこれらが皆、真実を知った後も平静に行動すると保証出来るだろうか。彼らの半ばは死ななければならないと言渡されて、果して船員の命令を守って順調に救助作業を運ばせるであろうか――問題は此処である。