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せかいかいきじつわ「じょぶん」
世界怪奇実話
牧 逸馬
Read 世界怪奇実話 (せかいかいきじつわ「じょぶん」) by 牧 逸馬 (まきいつま) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 251,305 characters · 498 screens
前に言ったように、市場こぼれの肉を売り乍ら、一方警察の鼻という、犯罪の巣窟に設置された特報機関、早く言えばスパイだ。英米で俗に謂う Stool-pigeon, 本朝では手先、あれを稼いでいたと言うが、これは、当時の独逸では珍らしい事ではなく、ハノウヴァにも、この種の其の筋と密かに気脈を通ずる市民が無数に散らばっていて、フリッツ・ハアルマンはその一人に過ぎない。上記のような市の情況に直面して、窮余の対応策として当局が案出した一種の補助機関で、これによって極左団体と浮遊人口の犯罪計画を未前に嗅ぎ出そうという、その百鬼昼行時代の一つの必要から発生した制度だったが、この、密告者として警察に接近している筈のフリッツ・ハアルマンが、其の眼下で、あの言語に絶した犯行を職業的に継続したのは、正に皮肉以上である。
尤もハアルマンは、初めから利用する心算で、カモフラアジュとしてスパイの役を貰ったに相違ない。だからこそ、あれ程の犯罪がああ長く知れずに過ぎたのだ。それと言うのが、警察とハアルマンのような常備間牒との間には、暗黙の了解が成立していて、何うせスパイを稼ぐような奴だから、碌な事はしないに決まっているが、其処はお上御用の役に免じて微罪はお眼こぼしと言う事になっていた。