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よしだしょういん
吉田松陰
徳富 蘇峰
Read 吉田松陰 (よしだしょういん) by 徳富 蘇峰 (とくとみそほう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 135,622 characters · 269 screens
第九 象山と松陰
明治二十六年三月二十七日蘇峰生
第九 象山と松陰
嘗て海舟勝翁に聞く、翁の壮なるや、佐久間象山の家において、一個の書生を見る。鬢髪蓬の如く、骨衣に勝えざるが如く、而して小倉織の短袴を着く。曰く、これ吉田寅次郎なりと。もし壮年以後に、松陰に及ぼせし個人的勢力の大なるものを求めば、象山にあらずしてまた誰かある。松陰を知らんと欲せば、勢いこの人を知らざるべからず。
人は自から知るより明かなるはなし。彼が人物は一部の『省録』、これを語りて余りあり。蓋しこの書は彼が松陰蹈海の罪に牽連せられて、安政元年四月より繋がれて獄にある七箇月の間、筆研を禁ぜられたるがために、黙録臆記になるものにして、あたかも松陰の『幽室文稿』とその趣きを同じうす。ただ『幽室文稿』は、安政五年戊午の正月より、六年己未の五月、殉難者の血を小塚原に濺がんがために江戸に檻送せらるるまで、一年半の記録なれば、その記事の詳略精粗は同日の論にあらず。然れども『幽室文稿』の活ける松陰の自伝たるが如く、『省※(「侃/言」、第3水準1-92-10)録』は、活ける象山の精神的影像なり。彼にして血を以て書かれたる懺悔録ならば、これは鋼筆を以て鐫られたる記念碑なり。