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どようふじん
土曜夫人
織田 作之助
Read 土曜夫人 (どようふじん) by 織田 作之助 (おださくのすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 106,903 characters · 213 screens
だからといってさびれているというわけではないのだ。京都では満員になる喫茶店なぞ殆んどないのである。しかし、たまにセントルイスが満員になることがあっても、彼は席を譲ろうとしない。泰然と落着きはらっている。チェーホフの芝居に出て来る下宿代を払わない老人のように、澄ましこんでいる。
「商談、お待ち合わせにお利用下さい」
という女文字の貼紙の下で、あたかも誰かを待ち合わせているかの如き顔をしているのだが、むろん誰を待ち合わせているのでもない。
しかし、D堂の主人を除けば、その時セントルイスにいたひと達は、まるで申し合わせたように、誰かを待っていた。
マダムの夏子さえも、待っていた。京吉を待っていた。
先斗町の千代若も旦那を待っていた。喫茶店で待ち合わせる旦那は、むろん上旦那ではなかったが、しかし、イロと旦那を兼ねた所謂イロ旦(那)はただの旦那、ただのイロよりもいいにはきまっている。だから、D堂の主人にからかわれながら、いつまでも待っていた。
カラ子が祇園荘から尾行して来たスリも、誰かを待っているのか、いらいらしていた。
そのカラ子は勿論京吉を待ちこがれていた。