Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

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どようふじん

土曜夫人

織田 作之助

Read 土曜夫人 (どようふじん) by 織田 作之助 (おださくのすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 106,903 characters · 213 screens

Aozora Bunko

六

「ああ、ああ!」

その時のことを、北山はなまなましく想い出して、溜息とも叫びともつかぬ、得体の知れぬ声をうめきながら、ぶるんと首を振っていると、電車が来た。北山はそわそわと、しかし、何か心を残しながら、その電車に乗った。すると、そのうしろから、十二三の娘が急いで乗って来た。いうまでもなく、カラ子であった。

六

電車が動き出すまで、少し間があった。その間、北山もカラ子もそれぞれ河原町通りの舗道を、窓ごしにキョロキョロ見ていた。カラ子は京吉が来るのを、待っていたのだ。

せっかく祇園荘からセントルイスまで尾行して、電話で兄ちゃんを呼び出したのに、兄ちゃんはよその女の人にばっかし気を取られていたので、カラ子は結局機転を利かしてひとりで尾行して来たのだったが、さすがに嫉妬じみた気持に、カラ子は唇を噛んでいた。

しかし、そのために京吉を恨もうという気もなかったのは、恋心の幼なさのゆえではない。ひとから優しくされることは、何となく諦めているこの少女の哀しいならわしだった。それゆえか、カラ子はひとから優しくされたいと願う前に、まず自分の方から献身して媚びて行こうとした。