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てんぽうのひこうじゅつ
天保の飛行術
野村 胡堂
Read 天保の飛行術 (てんぽうのひこうじゅつ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 14,024 characters · 28 screens
清作の身分は?
お通は懐中から出した山手形を、役人の前に差し出すのです。
「よいよい、それほど言うなら間違いはあるまい」
「間違いがあったら、私のせいにして下さいよ、尤も、もう二度と山から降らないかも知れないが――」
「何?」
「此方のことですよ、――左様なら皆さん、さア、お出よ、清作」
お通は清作の手を取らぬばかりに山道を急ぎます。
鶴来から白峰まで十里、其処から手取川に沿うて三里半行くと白山温泉、温泉から湯の谷と柳谷との両深谷に挟まれた長峰を一直線に東すること三里半で、海抜七千六百尺の弥陀ヶ原高原に達します。弥陀ヶ原から五葉坂を登ると御前平で、更に一千一尺、雲際に突入する御前岳の頂上に白山神社の本社があるのでした。
清作の身分は?
「此辺でひと休みしましょうよ」
御前平へあと一里余というところへ来て、お通は初めて口をききました、先刻山役人の前でまくし立てた、伝法な調子は微塵もありません。
道端の芝の上、手を伸せば、岩桔梗も、白山風露も、怪奇で可憐な黒百合も採れるところ、眸を放てば、気比松原の彼方、日和によっては、日本海も見えるというところに、清作はこの不思議な半面美人と並んで、いろいろのことを考えて居たのです。