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てんぽうのひこうじゅつ
天保の飛行術
野村 胡堂
Read 天保の飛行術 (てんぽうのひこうじゅつ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 14,024 characters · 28 screens
怨讐二つの飛行具
左半面の顔を見ずに、お通の遺骸を葬るのは、清作の一宮隼人に取っても、容易ならぬ苦心でした。
が、その作業が終る頃、御前平の作業場では、幸吉と、奥村主殿と、鶴次郎との話が進んで居たのです。
「それではこの幸吉に、鶴次郎と腕比べをしろと仰しゃるので」
幸吉の顔には言いようも無い不快の色が漲ります。岡山を追われてから三十年、この時はもう六十歳の老人でしたが、その研究と自尊心の旺盛さは、奥村主殿や鶴次郎が考えたようなものではありません。
「いかにも、――それが殿の御思召だ、其方が山へ籠って二十年あまり、やがて三十年近くなろうが、まだ飛行具が出来上らないでは弁解にならぬぞ、鶴次郎は三十そこそこの若さだが、もう立派に飛行具を仕上げ、飛行術も体得したと言っている」
「それが、娘をたぶらかして、みんな此の私の工夫を盗んだので御座るぞ」
幸吉はたまり兼ねました。
「馬鹿を申せ、鶴次郎は竹田人形名誉の細工人だ、其方の工夫を盗んだだけで飛行具が出来ると思うのは大間違いだ」
「論より証拠、腕比べをいたしましょう」
鶴次郎は横合いから生白い顔を出すのです。
「今から七日目、此の場の谷間でやるとしよう、よいか」