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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
Read 孤島の鬼 (ことうのおに) by 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 181,795 characters · 359 screens
暗中の水泳
私達は仕方なく、立上って、一刻でも水におぼれる時をおくらそうとした。
暗中の水泳
私は子供の時分、金網の鼠取り器にかかった鼠を、金網の中に這入ったまま、盥の中へ入れ、上から水をかけて殺したことがある。外の殺し方、例えば火箸を鼠の口から突き刺す、という様なことは恐ろしくて出来なかったからだ。だが、水責めも随分残酷だった。盥に水が満ちて行くに従って、鼠は恐怖の余り、狭い網の中を、縦横無尽に駈け廻り、昇りついた。「あいつは今、どんなにか鼠取りの餌にかかったことを後悔しているだろう」と思うと、云うに云えない変な気持ちになった。
でも、鼠を生かして置く訳には行かぬので、私はドンドン水を入れた。水面と金網の上部とがスレスレになると、鼠は薄赤い吻を、亀甲型の網の間から、出来る丈け上方に突き出して、悲しい呼吸を続けた、悲痛な惶しい鳴声を発しながら。
私は目をつむって、最後の一杯を汲み込むと、盥から眼をそらしたまま、部屋に逃げ込んだ。十分ばかりして、恐々行って見ると、鼠は網の中で、ふくれ上って浮いていた。
岩屋島の洞窟の中の私達は、丁度この鼠と同じ境涯であった。私は洞窟の小高くなった部分に立上って、暗闇の中で、足の方から段々這い上ってくる水面を感じながら、ふとその時の鼠のことを思い出していた。