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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
遠い夢の国から浮き上った微妙な線は淡い幻の国に引き返して、少しの間現に顕れて来ないが、やがて水面に浮ぶ大魚の背の如くに再びゆらりと姿を顕わすと、根に籠る若草の力が茎となり葉となって伸びて行くように、若しくは又苔の下に咽んでいた清水の滴りが岩間に走り出て、忽ち潺湲の響を立てながら一道の迅流となって駆け下りて行くように、後から後からと次第に力が加わって大空の一点を指して或る高さまで達すると、茲に始めて長短曲直各種の線が離合集散の妙を尽して、一連の大山脈即ち東は雲取山から西は三宝山に至る長大なる連嶺を天半に聳立せしむるのである。そして終には彼の両神山の奇峭を掉尾に振い起して、この大山脈を竜頭蛇尾に終らしめない所に、自然の用意の周到なることが窺われる。秩父山は実に上州方面より望む可く造られたものであって、其色彩の美、其連嶺の長大は、他の如何なる地点より眺めても、到底此方面に於けるが如き充分なる印象を享受することは不可能であろう。
私は早くから日夕其姿に接して、強く脳底に焼き付けられた此等の印象を齎らして、秩父の山や谷に分け入ったのである。そして実地を蹈んで見て、此等の印象を裏切りされなかった許りでなく、長大に加うるに更に深奥という、遠く望んだだけでは得られなかった新らしい一つの印象を脳底に焼き付けたことを喜んで