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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)

山の憶い出 上

木暮 理太郎

Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens

Aozora Bunko

其裾のあたり青磁色の一線が所々強く光を反射しているのは尾瀬沼であろう。駒ヶ岳、平ヶ岳、景鶴山。平ヶ岳には今日は霜柱が見られなかった。下津川山から小沢岳の方面へかけて雲が余程低く垂れている。至仏山、笠ヶ岳。武尊山の乱杭頭にも古綿のような雲が流れ寄っていた。尾瀬沼の東の檜高山、治右衛門池の南の皿伏山、さては其名の如く双峰を対峙させた荷鞍山までも、皆大きな蛞蝓が匐ったようにのろのろしている。そして此等の山を屏風の如く立て廻して其処に驚く可き色彩の世界が展開していた。

満谿――片品川上流の粘沢、柳沢、中岐沢の一部――を埋むる闊葉樹の大森林は、見渡す限り赤と黄と其間のあらゆる色とに染められて、朝暾落暉の光に炎と燃える雲の幾群が谷中に瀰漫したようである。眤と見ていると丸く盛り上った一つ一つの梢は、大きな竈の中で渦を巻く※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)のように、明くなったり暗くなったりして、光と蔭と錯綜した曲線の皺がモクモクと動いているようだ。それが谷風に煽られて、燎原の火の様に山麓から山頂へと一気に音もなく燃え拡がって行く。まるで大きな山火事だ、と私は思った。