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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
唯何処となく硫黄の香が漂うているように思われた。
砂地を歩いたり水を渉ったりして暢気に歩いて行く。雨は小降りになったが、雲は低く垂れて上流も下流もまだ暗く閉されている。時々電光でも迸るように空の何処かがパッと明るくなると、雲のあわただしい擾乱が始まる。重く停滞した下層の霧までが翅を得たもののようにすうと舞いりながら川下へ飛んでは消える。其下から紅や黄に染った闊葉樹の梢が、さながら魔術師の杖が触れたように浮き出して来る。見る間に両側の山腹はこの華やかな錦繍の大屏風と化してしまった。
雨が歇んで薄日の光がさして来た。硫黄の匂が稍強く鼻を刺激する。八丁ノ湯の附近であろう。此処は幸に河原が開けて流木も多い。濡れた物など乾しながら、飯を炊いたり汁を煮たり、ゆるゆる三度分の食事を済した。大金は椎茸がある筈だというて頻に探し廻ったが、四つか五つしか採れなかった。二、三日前に椎茸採が入ったのだと之は後に聞いた。大金の言う所に拠ると、椎茸と松茸は生で食えるものだそうだ。試に其言に従って松本君と味って見る。成程軟で甘味があって香気が高い。次手に自分で採集した分まで食べてしまう。