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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
其癖今朝からまだ一滴も口に入れないのだ。寒い位涼しいので水など少しも欲しくない。忌々しいので岩の上をガランガラン引摺ったりなどしても、不思議に滾れもしなければ又壊れもしない。東破風に着いたのが十時四十分で、十分許り休んで十一時十分西破風の三等三角点に達した。小さな櫓が残っている。其側にドッカと荷物を卸してゆっくり昼飯にする。展望がないので却て気が落ち着いて好いなぞと負惜みを言っていたのは誰であったか忘れてしまった。
頂上は広くはない。東寄りに少し木立があるが西から南は開けている。脚の下の青苔の間から顕れている岩は、研きをかけたように白く滑かで、黒雲毋が散点しているのが誠に美しい。野営でもしたものか、秩父側に寄った木の繁みの下に、燼さしの木が散らばっている。見る通りの岩山なので、植木屋が真柏を採りによく登るということを後に聞いた。しかし最早採り尽されたそうである。此焚火の跡は察する所其人達の仕業ではあるまいか。
曾て『山岳』九年三号の雑録欄に、東京市中からは此山は雁坂山に隠れて見えないというように書いた。其後極めて好晴の日に凌雲閣へ登って、此山が雁坂山の左木賊山の右下に姿を顕わしていることを発見した。