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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
吾は今更ながら自然の力のいとも大なるを感じ、暝目して耳辺に風雨の荒れすさぶ音を聞きつゝ、魔王波旬のあらゆる障礙にも動かさるゝことなく、菩提樹下に金剛座をしめて、想を寂光の彼岸に馳せ、涅槃微妙の道に到達して仏となりたまひけむ世尊の昔を偲び、身はいつしか一切苦悩を脱離して、魂は靉靆たる紫雲の裡に包まれ、兜率の外院に常世の春を迎え得たらむ心地もかくや、恍惚としてしばしは吾あるを忘れたりしが、几体終に天上の仙と同じからで、霊は肉に克つよしもなく、覚め来れば五欲尚ほ累をなし、身は依然として六塵の巷に在り、無上正覚の地とこしなへに望む可からざるか、よしさらば飄として雲表の峻岳を攀ぢ、しばらく吾が神を王にせん哉。
此日の颱風は、大正十三年十二月中央気象台刊行の『本邦気候表』に拠ると、瀬戸内海に突出した児島半島の西南部に在る味野では秒速三二・七米、其北北東二十五粁に在る岡山では三六・九米で、両地とも大正十三年迄の最大風速を記録しているから、颱風としても弱い方ではない。中心の通路は、日向灘から四国の松山附近を掠め、岡山の西方を北微東に日本海に出ている。中心に遠い甲信地方は其余波を受けたものに過ぎまい、けれども山の上だけに風は相当強く、東京でさえも南南東風が一五・二米に達した。