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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
それでいて誰もそんなことは気にも懸けないといった風にサッサと歩き出す。唯だ山へ山へ。それが今の私達を支配する強い力であった。
島の中の砂路は三、四町続いた。河が右に岐れる所から二、三十歩西へ退って、茅葺の低い小さな家が四、五軒マッチ箱を並べたように立っている。緑の葉を拡げた中から目立って強い黄色の花を抽き上げた南瓜棚の端に赤い布なども干してあった。島を離れると一段高い木地屋だ。細い路が植林した杉の若木の間を蛇の如くうねって行く。原はそう広くはないが長さは五、六町ある。元は此処に人家があって、塗物の木地を造っていたのだそうだ。自然を虐待して自然から虐待された山人の生活の頼りなさが想われる。杉は未だ枝を交す程に伸びていない。下草の薄や萱が思う存分に繁り合って、無遠慮に蔽い被さって来る。大きな岩の鼻を廻ると其蔭に、五、六人の若い娘達が草を刈っていた。私達の近付く跫音を村の衆位に思っていたのであろう、何気なくこっちを見ておどろいたように鎌の手を休める。路はだらだらと下りて河原に出た。藤蔓でからげた丸木橋が岩から岩へ渡してある。鴨緑を溶かした水が其下を泡立って流れて行く。