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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
覚束ないとは思ったが私は先に立って草の根を頼りに横を搦んで見た、二間許り進むと三尺程跨いで向うの岩角に足を懸けたまま果して動けなくなる。はずみを付けて右の足を引けば左の手だけは上の階段に懸けられそうに想える、併し外れたら事だ。仕方がないから大の字になって岩に獅噛み付いたなり「駄目だ」と怒鳴る。横の斜面を登って大磐石が山の胴骨と続いている所を藪に潜り込んで乗り越すより外に路はない。
引き返して斜面を登る、白根葵が薄紫の大きな花を挿して、オオバセンキュウや猩々袴の生えた中に笑み傾けている。登り詰めると頭の上にのし懸った崖の下を横に搦んで、馬の脊に似た岩の腹に突き当る。深山榛や根曲り竹が一面に叢生して、どう蹈み込んだものか勝手が知れない。長次郎が先に立って乗り越すと向う側に姿を隠す。これ迄の例に依ると長次郎は一旦見込みをつけて足を向けた以上は、決して引き返したことのない男だ。直ぐ後から続こうとは思ったが、様子が分らないので暫く躊躇していた。音沙汰がないので「如何だ、行けるか」と大声に聞いて見る、「行ける行ける、好い所だ」と幽かな返事が来た。木の根を掴んだり岩角に縋り付いたりして、馬の脊を逆落しに降りた所は根曲り竹の密生した岩壁の窪に過ぎなかった、急直に下ろして来た岩壁はこの窪を作る為に円味を帯びて抉れ込んでいる