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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
東寄りの岩壁の間の急峻な空谷を草に攫りながら背向きにドッと辷り下りる。其処から右に切れて岩の多い草地に腰を落ち付けた。振り返って見上げると、どの尾根にも赤裸になった坊主頭の岩が凄い顔をして脅かしている。其方へくるりと尻を向けてサッサと下って行く、始めは足場がよかったが直ぐ又笹がのさばり出す。大きな鎌か何かで無茶苦茶に薙ぎ倒して遣り度くなった。舌打ちをしながら押し分けて進むと、いつか爪先が仰ぐようになる。此笹原が峠の頂上だったのだ。東の斜面を少し下った処に果して雪田が現われた。物々しい道具立こそないが、一目に夫と知られる程の荒れた寂しい所である。干からびて素気もない土は、雪解の水を何処へ吸い込んでしまうのであろう、木の芽もまだほぐれ兼ねている。温かい感じのする色などは一として目に入らないのだ。先っき上から眺めたあの草原もあのだぶだぶの水も、畢竟沙漠を旅するキャラバンの幻視に過ぎなかったのであろうか。私は腹立たしくなった。天幕を張れないのは我慢するとしても、此の低い谷間へ下りながら、雪を溶したあの薄汚い水をさも貴いもののようにして、馬鹿骨を折って炊いた糠臭い飯などは、この大事な空き腹にあてがい度はない。