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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
所謂餓鬼の田だ。水際には纔かではあるが雪も残っているのに蛙が鳴いている。跫音が近付くとひたと止んでしまう。どんな蛙か見たいものだと思って、暫らく探したがとうとう知れなかった。東の方を覗くと、脚の下から小黒部の谷へ延びている尾根の中ほどにも小さい池があって、真青な水を湛えている。蛙がまた鳴き出した。気の所為か何だか私を嘲っているようにも聞える。忌々しい奴だ。これでも喰らえと側にあった兎の糞を拾って、力任せに投げ付けてやる。
此処は低いが四方が開けているので可なり眺望が好い。野営地からは見えなかった五竜岳や鹿島槍岳が唐松岳の南に頭を擡げて来た。名高い八峰の断裂は、底が五竜岳の方に抉れ込んではいるものの、斯う離れて眺めては、天魔が巨箭を飛ばしてザクリと射抜いた鏃の痕のように小さい。南方の天には劒岳が赤谷山から右に引き下ろした尾根の上に鋭い峰角を覗かせる。大日岳の長大な山稜がガックリ低くなると、雲の海が目も遥に続いて、白山が独り紺碧の空にふわりと横たわる。長次郎達は双眼鏡で頻りに大黒鉱山の附近を物色して、人が居たとか居ないとか言いながら、子供のように嬉しがっていた。