Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
今度は鉛のように重かった足が鉄塊のように重くなった。素知らぬ顔をして横目もくれず登って行く南日君を駆抜いてやろうと思うが、反て後れる許りだ。これまでカンジキさえ穿けば疾く登れるものと信じていたのは大間違いであった。其間違いを今始めて三窓の雪渓で発見したのだ。しかしこんな急な雪渓を上るには、脚上体なく脚下雪なしの妙諦に到らないとカンジキなしでは心細い、それを草鞋の儘で登った南日君は、確にこの妙諦を会得した者というてよかろう。
長い長い雪渓は終った、湖面を亘る漣のような雪田を蹈んで二十間も行くと三窓の若々しい草の緑が私達を迎えた。珍車、岩黄耆、深山塩竈、青栂桜、岩梅、雲間草、黒百合などの咲いている中に交って深山小田巻草の花が薄紫の香を吐いている。背後は谷が急に抉れ落ちて、危く根を下ろした偃松はべったり崖に食いついている、底は見えようにも余りに深いのだ。
北には小窓の頭が四、五十米もあろうと思われる将棊の駒を幾つか横に並べ、それを真二つに截ち割ったような背面を谷の向う側に見せて、凄まじい赭色の大峭壁を懸け列ねている。その一つ此窓の大岩柱は直ぐ目の前にがっしりと根を張って、曇りを帯びた朧の雪が燻し銀の金具の様に根元を飾っている。