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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
、私の知る所ではないが、よしやそのような信念は影だに宿らずとも、少くとも一定の教規の下に拘束されている講中に取りては、唯一の室堂のみが解放されたる天地である。其処に夏になると美しい衣に滲み出る黴のような、周囲に不調和な平原の陋習の迹が汚なく印せらるるにしても、其他の、殊に別山から雄山に続く長い頂上の何処に、あの放縦な多数の登山者に踏み蹂られて、鱗粉の剥げ落ちた秋の蝶を見るようなみじめな白馬岳の頂上に似た光景が見られるであろうか。其点だけでも私は神官の功労に対し、敢て三十銭の入山料を払うに躊躇する者ではないが、今日は室堂へ立ち寄らないので其儀に及ばなかった。
これから予定の通り黒部川に下りて、東沢から赤牛岳に登り、槍ヶ岳若しくは笠ヶ岳まで山稜の縦走を続けるに就ては、糧食の欠乏を補う必要があった。それで三人の荷持は此処から室堂に直行せしめ、其処で米や味噌等の必需品を充たし得ればよし、左もなくば其中の一人は更に立山温泉まで買出しに行かなければならぬ、兎に角浄土山で落ち合って様子を聞くことに相談を極めて、峠を下り始めた彼等の後姿を見送りながら、私達三人は立山本山を指して悠々と歩き出した。