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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
夫には前兆があって、娘のある家の坐敷に、杯を添えた美酒が置いてある。それが七日の間続く。若し酒に手を付けなければ何事も無くて済むが、少しでも其酒を飲めば娘はさらわれて行くのだそうだ。これは助七の話である。
これから愛本温泉までは一里足らずの道で、五時半に温泉に着いた。延長五千八百間の木樋を用いて、黒薙谷の二見温泉を引いたものである。新築の二階建で甚だ気持がいい。此夜は白馬方面に電光の閃くのを見たが、里の光は冴えていた。但海の方は暗いので翌日の天気が心配になった。
夜が明けて見ると果して雨である。此日は温泉に逗留して、案内者の助七が音沢村から来るのを待っていた。其間にも中村君と宿の二階から替る替る首を出して、其処から見られる黒部川を幾度か眺めた。水量はさして増した様子もないが、水の色は濁ったり澄んだりした、それと共に私達の心も暗くなったり明るくなったりする。其中に段々濁る一方になったので、私達の心も亦益々暗くなって行くのは情なかった。昼過に助七が来て、打合せが済むと一風呂浴びて帰って行く。夜中に数声の雷鳴を聞いたが、雨は降らなかった様子である。
二十九日。