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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
まだ十一時で少し早いが昼食をすまし、一時間ばかり休んで雪渓を上りはじめる。真砂沢を過ぎ、長次郎谷を送り、平蔵谷を後にして、何処までも雪の上を辿って行く。登るに従って勾配の緩くなった雪渓は、次第に左へ廻って南を指すようになる。谷はいつしか扇形に開いて、岩が現われ雪が絶えると、間もなく別山裏の平に達した。この高原状の草地では、いつもゆっくり休みながら四辺を見廻して、山に来た幸福をしみじみ味わっていたのであるが、今日は天候が怪しく時間も遅いので、荷は重いが其儘歩み続ける。
急な雪田を登って、別山乗越に着いたのは午後四時であった。北俣の出合から普通四時間の行程であるが、荷が重いので六時間余を費している。こんな重い荷を背負って谷を上ったのは初めてだ。三窓も長次郎谷も先年より雪が少ないように思われたが、地獄谷から室堂方面にかけては例年と変りはないようである。多数の噴湯丘を取り巻いて、離合集散する曲線と化した地獄谷内部の残雪のむれは、依然として縄紋土器に見られるような模様を現わしていた。午後から次第に荒れ気味となった空には雲が低く垂れて、雨気を含んだ南風が吹き募って来た。