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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
『曾我物語』には、此日に狩が行われて、射手の人々もそれぞれ獲物があった。中にも仁田四郎忠常は頼朝の目前で手負の大猪を仕留め、これぞ今日の功名と大喝采を博したことなどを載せ、明日は頼朝が鎌倉に還るというので、この機を逸してはと兄弟が討入を決行したように書いてある。
桜の木を見物している間に、東の方の雲が散って富士が姿を顕した。振り仰ぐ程に高く見える。正面に大沢の薙を埋めた雪の或部分が凍って、銀板の如くきらきらと輝く。裾の方には昨日降った淡雪が、鹿子斑に樹木の間の茅戸を飾っていた。狩宿から五、六町離れて、少し北に寄った東の方に黒く茂った杉森がある、森の中に祠があって、曾我八幡と土地の人は教えた。けれどもこれは曾我兄弟の霊を崇め祀ったものに外なるまい。今は上屋もトタン葺に変って、中に電灯が吊してあるのも時勢の然らしむる所であろう。
祠を辞して本道に出で、六、七町行くと上井出の人家が杜絶えようとする左手の路傍に、半から折れた樅の大木があって、幕張の樅と呼ばれ、頼朝が幕を張ったものだという。其傍から左に杉並木の間を上って行けば、物見塚という小丘の上へ出られる、頼朝が狩場の働きを見物した場所であると伝えられている。