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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
連れて行った人夫は携帯のお神酒とお供とを神前に捧げて礼拝した後、賽銭は下げて懐に入れてしまった。
「●三国山より見たる苗場山」のキャプション付きの写真
●三国山より見たる苗場山
多年の希望を満たした折角の登山も、霧の為に眺望はさて措き、附近の撮影すらも覚束ない有様であった。私達はこれから小赤沢へ下る目的なので、小屋に戻って昼食を済し、人夫と別れて一時十五分、教えられた道だというのを、地図と違っているので怪しみながらも深く気にとめもせず、下り始める。一町ばかりで道跡らしいものは消え失せ、可なり綿密に附近を探しても続きが判明せぬ。然し雪は六尺から一丈二、三尺も積っている。邪魔な笹や灌木は其下に押し竦められているから何処でも自由に通れる。尾根から沢へ沢から尾根へと一時間以上も下って見たが、何処にも道らしいものはなく、遂に濛々たる霧で深さの測り知れない崖の上に出てしまった。耳を澄すと遥か下の方で水音はしているものの何の用意もしていない私達にこの急崖は下れる筈がない。時は三時を過ぎて雨さえ強く降り出した。もとの赤湯へ帰るのが最も安全な策である。そこで下った時の足跡をたよりに頂上へ引返し、飛ぶように駆け下りたので、未だ暗くならない中に河岸へ下りて、大声で人夫を呼び、迎えに来て貰って崖へつりを終えた。