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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)

山の憶い出 上

木暮 理太郎

Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens

Aozora Bunko

頬を撫でる若葉の風に迎えられて、青笹川を渡るともう陰森の気が迫って来る。下蔭に笹が多い為であろう。森林の笹の中を辿るのは妙に淋しいもので、どうかすると薄気味わるくさえ感ずるものである。十一時四十五分ナレイ沢の右岸を降りて、子酉川の河原に出で、岩魚釣りの小屋に休んで昼食にする。小屋というても木の枝を編んで造ったものであるから、露天よりはましという位の程度のものに過ぎない。小屋の上には大きな木が差し懸って、葉裏を洩れた日光が、黄金の雨のように落ちて来る。無数の羽虫がぶんぶん呻りながら、この大木を取り巻いて枝端から枝端へと飛来飛去している。能く見ると小さな白い花が咲いているのだ。水を汲みに飯盒を下げて汀へ下り立つと、向う岸は崖をなして、其下は深くはないが淵になっている。崖には日蔭躑躅が咲いて、薄黄色の上品な花の影がくっきりと水に映っている。それが波のゆらめくに連れて、絨氈の模様のように拡がったりする。とろりとして油のような水の面には、ほぐれ落ちた苞や鱗片の類が、時には何かの花弁や青い葉なども交って、澪筋を後からも後からもと列をなして浮いて流れて来る。自分はやおら水を汲み上げながら、如何に生命の盛なる活躍が今行われつつあるかを想うて、眸を上流の山々に向けずにはいられなかった。