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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
森林は愈深くなって、空から反射する弱い光線は、青木黒木の蔭に吸い込まれて、吐き出された木の下闇のみが宙にさ迷うているに過ぎない。高く昇った筈の太陽も、更に高い鶏冠山の峰頭に遮られて、自分等は今朝から未だ一度も其光に浴することが出来ないのだ。不安らしい顔を見合して二人とも黙って行く。河が左に折れて右岸に小高い砂地が現れる。洪水の際に水が置き残したものであろう。中央の稍や平な所に黒い塊があるのに気が付く。よく視ると焚火の跡である。誰か野営したものに相違ない。今迄まさかと思って半信半疑であった二人の心は、この確な証拠を目の前に突き付けられても、敢て反感を抱かなかった程淋しい頼りないような感じに支配されていたのであった。
河はすぐ又右に折れて北を指すようになるが、気の所為か険悪の度を減じて来た様に思われる。両岸も少し開けて、水辺には滴る様な青葉を枝一ぱいに翳した闊葉樹が鬱蒼と生え続いている。岩も小さくなった。水は浅い瀬を成して淙々と流れて行く。あの力任せに岩をこづきながら奔下する勢はまるでなくなっている。苔の匂いと若葉の吐く息の香とが、其処ら一面に漂うている森林の一端に足を蹈み入れた時は、うっとりと気も遠くなる程であった。